異なる価値観を掛け合わせ、Universal MaaSの輪を広げる​

〜誰もが移動をあきらめない世界の実現へ〜​

  

 

祖母の笑顔がきっかけになった「Universal MaaS」のプロジェクト

 

国内線、国際線を含めて年間5000万人以上が利用する全日本空輸(ANA)。世界中に幅広いネットワークをもつ同社は現在、「Universal MaaS(ユニバーサル・マース)」の概念を掲げ、具体的なサービスの実現に向けて実証実験を進めている。​

 

 

「Universal MaaS(ユニバーサル・マース)」とは障がい者や高齢者、そして訪日外国人など、何らかの理由で移動にためらいを抱えている人々が、ストレスなく快適に移動を楽しむためのサービスだ。​
交通機関の運航・運行状況のほか、バリアフリーの乗り継ぎルート情報を利用客に提供しながら、必要とする介助内容を事業者や自治体間で共有することで、よりシームレスな移動体験の実現を目指している。

 

このプロジェクトは、ANAの一社員の原体験からスタートした。発案者は、企画室MaaS​推進部でマネジャーを務める

大澤信陽(のぶあき)氏。「Universal MaaS」が誕生したきっかけは、彼が岡山県に住む車いす利用者の祖母の笑顔を見た約4年前に遡る。​

 

「祖母は関東に住むひ孫に会いたいと言いながら、他人に迷惑をかけたくないという理由から、移動をずっと躊躇していました。ですがとうとう念願が叶ってひ孫に対面できた時、満面の笑みで『生きていてよかった』と言ってくれて。こうした生きがいを感じられる体験を、ぜひ他のお客様にも味わっていただきたいと感じたのです」(大澤氏)​

そこで大澤氏は「誰もが行きたい時に、行きたい場所に何不自由なく移動できる世界を構築する」という目標に向け、社内の新規事業の提案制度「ANAバーチャルハリウッド」に応募。ANA企画室内にMaaS推進部が設立された2019年7月以降、本格的な事業化に向けて、社内外問わず多くの人々と日々議論を交わしてきた。​

 

「世の中は、いわゆる健常者目線でサービスが構築されているため、そこから溢れてしまっている方々が不便を感じています。しかし、不便を感じている方々の目線で考えると、実は健常者にとっても有益なものになる。だからこそ、ユニバーサルデザインのMaaS、つまりUniversal MaaSの実現を目指しています」(大澤氏)​

 

 

 

今後の本格運用を見据え、機能の追加や改善を目指す

ANAのMaaS推進部ではまず、移動したくても移動をためらっている「移動躊躇(ちゅうちょ)層」向けのサービス開発を進めている。​
2019年にはANA・京急電鉄・横須賀市・横浜国大の産学官連携をはじめ、全国の車いす利用者が収集した走行ルートやスポット情報を展開する一般社団法人WheeLogなどの共創者を集め、実証実験をスタートさせた。

 

この実証実験は産官学の4者が連携し、羽田空港から神奈川県横須賀市周辺エリアにかけて実施された。​
実験の目的は、現状の移動に関する課題を、事業者と利用者の双方の視点から抽出すること。そこでANAはパソナテックとともに、プロトタイプとなる二つのモバイルアプリを開発した。​

 

 

 

一つ目のアプリは、事業者向けのモバイルアプリだ。駅員は専用の端末を通じて、車いす利用者の位置情報や、どのような介助が必要なのかといった情報を、写真付きで判断できる。二つ目のアプリは、利用者(お客さま)向けのもの。利用者はアプリを通じて、バリアフリー対応のルートを優先的に確認できる。​

 

同実証実験のプロジェクトでは、様々な立場の人々の意見を収集しながら、アプリをアジャイル形式で開発。細かい部分をチューニングしながら、全体の方向性を決めていった。​

 

「アジャイル形式」の開発とは、短期スパンで開発と検証を繰り返しながら、仕様変更や機能追加を進めていく手法だ。​

 

「車いす利用者である友人・知人にヒアリングを行い、サービスをゼロから創り上げていきました。細かな仕様の変更も多く発生したため、開発をサポートいただいたパソナテックさん側では大変な部分もあったかと思います」(大澤氏)​

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  全日本空輸株式会社 企画室 MaaS推進部​
   マネジャー 大澤 信陽 氏​

 

 

アプリの開発に携わったパソナテックのエンジニアは「いただいた当初の案を元に、運用段階ではどのような課題が出てくるかを見据え、プロトタイプの開発を進めました。​
将来的には様々な事業者の参画を見込んでいるため、特に路線図の表記方法や車いす利用者の方の位置情報の表し方に工夫を凝らしました」と語る。

 

​パソナテック全国本部ビジネスプロデューサーでシニアマネージャーを務める杉浦は「約3ヶ月という短い開発期間の中で、異なる考えや価値観をもつそれぞれのメンバーが責任感をもって取り組むことができたように思います。何よりも、ANAさんとパソナテックメンバーで形成されたチームの雰囲気が良いことが、客観的にみてもとても魅力的に映りました」と話す。​

 

「プロジェクト中はもちろん大変な時もありましたが、丁寧に議論を重ねながら、何よりも楽しんで取り組めたことが印象に残っています。サービスを作っている本人たちが苦しんでしまっては、良いものは決して生まれません。だからこそパソナテックさんとは、チーム一丸となってプロジェクトに向き合えたことを、とても嬉しく思います」(大澤氏)​

 

重視しているのは、現場の当事者と同じ目線に立つこと​

「Universal MaaS」に関するサービス作りにおいて、現場の当事者の目線に寄り添うことを何よりも大切にしている。​
2019年度の実証実験では、事業者毎に業務プロセス上の課題が異なっていることや、介助が必要なお客さま一人ひとりの課題や解決策が異なっていることが分かった。​

 

そこで2020年度の実験では、社会実装に向けてより多くの知見を集めるため、様々な専門分野をもつ24社のパートナー企業が参画している。今後はより具体的に議論を深めながら、ビジネスモデルの構築を目指す。​

同プロジェクトに携わった企画室MaaS推進部の黒岩氏は、現場の視点を重視する理由について、こう語っている。​

「MaaS推進部に所属する前には、コールセンターで航空券予約の手配などを担当しており、お客様の声を直接伺う大切さを痛感しました。例えば、1日に数本しかバスが通っていないエリアに住むお客様からの問い合わせを通じて、飛行機をご予約いただく際にとてもご不便を感じていらっしゃることを知りました。だからこそUniversal MaaSのプロジェクトでも、当事者の目線を最も重視しています。パソナテックさんからはお客様の目線に立った意見をいただくことも多く、とてもありがたいですね」(黒岩氏)​

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  全日本空輸株式会社 企画室 MaaS推進部 

            黒岩 愛 氏

 

 

 

航空会社は、利用客が希望するサポート情報を幅広く把握している場合が多い。さらに、移動中に利用客と接する時間が最も長い交通手段のひとつでもある。​

大澤氏は「これらの情報やナレッジをすべての事業者と共有することができれば、全体的なサービス向上につながるはずです」と、今後の展望を話す。​

 

誰もが移動をあきらめない世界を実現する​

ANAでは、Universal MaaSのコンセプトや仕組みを世界中に広めることを目指している。​

「Universal MaaSは、決してANAだけのものではありません。現在は、点と点がつながってようやく一本の線になり始めたところです。今後はそれぞれが自分に合った移動手段を選び、どの手段でもスムーズに移動できる仕組みを構築したい。この想いを胸に、これからもUniversal MaaSの輪を広げていきたいと思います」(大澤氏)​

 

 

導入先企業情報​

■導入企業​
全日本空輸(ANA)株式会社​

 

 

■利用サービス​
Universal MaaSプロトタイプアプリ​

(1)サービス利用者用のアプリ​
移動時に介助を必要とする車いす利用者を対象にした、バリアフリーの乗り継ぎルートナビ。空港から目的地までの経路検索や、空港や駅構内、施設周辺のルート案内が確認できる。​

(2)サービス提供者用アプリ​
介助が必要な利用者の位置情報や属性情報を閲覧できる。利用者が空港や駅、施設に接近したことをアプリで通知する。​

■プロフィール​
全日本空輸株式会社 企画室 MaaS推進部 マネジャー 大澤 信陽 氏​
全日本空輸株式会社 企画室 MaaS推進部 黒岩 愛 氏​
株式会社パソナテック 全国本部 ビジネスプロデューサー シニアマネージャー 杉浦 美岐​
​​
インタビュー日時:2020年12月14日​

 

 

▼アプリ/システム企画開発支援サービスについてはこちら

 

▼アプリ/システム企画開発支援サービスの資料ダウンロードはこちら

 

LINEアプリを使ったシステム開発のサービス事例

 

DX推進で新規PoC(概念実証)プロジェクトを推進している事例