人的資本開示の義務化を解説!対象企業や開示項目についても紹介

2023年04月18日 08:30 #人事トレンド

これまで企業の市場価値を測る際は、財務情報の分析が基本となり、無形資産については重視されていませんでした。しかし、近年では無形資産である「人的資本」に注目が集まっています。2023年1月に、改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」が施行され、2023年3月期決算から上場企業には有価証券報告書に人的資本の情報開示が義務付けられました。

 

この記事では「人的資本開示の義務化」を取り上げ、注目を集める背景や対象企業、開示する項目について紹介します。

 

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■人的資本開示とは?

■人的資本開示が必要とされる背景

■企業に求められる人的資本開示の具体的な項目とは?

■人的資本開示のメリット

■まとめ

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■人的資本開示とは?

 

人的資本とは「人材が持つ能力を企業における資本」と捉える考え方です。また、人的資本と類似した概念として「人的資源」がありますが、2つの言葉は一見似ていますが意味は違います。

 

「人的資本」の場合は、人材に対する能力開発が企業の価値を創造するとし、人材にかかる費用を投資と捉えています。これに対して「人的資源」の場合は、人材はリソースとして消費される対象であり、人材にかかる費用をコストと捉えます。

 

人的資本開示は、企業の価値向上に欠かせない人材に関する情報を、組織全体の保有スキル、ダイバーシティ(多様性)などで数値化して開示することです。また、企業が従業員の成長のために、どのような取り組みをおこなっているかということも開示内容に含まれます。

 

上述の通り2023年3月期決算以降、有価証券報告書を発行する上場企業(約4,000社)を対象に人的資本や多様性に関する情報開示が義務付けられ、将来的にはどの企業も人的資本の情報開示が必要になる可能性が高いとされています。

 

■人的資本開示が必要とされる背景

 

人的資本の情報開示が高まっている背景として、ESG投資への関心の高まり、ISO30414の公開、米国証券取引委員会における人的資本開示の義務化の3つがあります。

 

●ESG投資への関心の高まり

ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を合わせた造語で、ESG投資は、企業の財務情報のみならず、環境や社会問題への取り組みなどにも着目し考慮した投資のことです。なお、人的資本はSocialに含まれ、企業価値に大きく影響を与えるとされています。

 

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●ISO30414の公開

ISOとは非政府機関の国際標準化機構の略称で、主な活動は国際的に通用するガイドラインを制定することです。ISO30414(人的資本に関する情報開示ガイドライン)の公開をきっかけに、欧米の企業では人的資本に関する情報開示をする動きが見られ、その影響を受けて、日本でも人的資本経営への関心が高まりました。

 

●米国証券取引委員会における人的資本開示の義務化

2020年、米国証券取引委員会 (SEC)がレギュレーションS-K(非財務情報)を改定し、人的資本の情報開示義務化の規制を追加しました。具体的な開示内容は各企業の判断に委ねられているものの、例として、人材開発、維持、企業自身の魅力などに関する情報開示が期待されています。

 

●人的資本開示に関する日本国内の動き

人的資本開示の世界的な潮流のなかで、国内でも人的資本の開示に向けた動きが活発になっています。経済産業省の発表した「人材版伊藤レポート」、東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」における情報開示義務化、内閣官房が発表した「人的資本可視化指針」の3つです。

 

●「人材版伊藤レポート」(経済産業省)

「人材版伊藤レポート」とは、経済産業省が主催した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の最終報告書で2020年に公表されました。グローバル化やデジタル化、少子高齢化、コロナ禍、これらの環境変化に対して経営戦略と人材戦略の課題がより密接になっていることを示しています。なお、2022年にはさらに人的資本経営の実践ポイントを示した「人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。

 

●「コーポレートガバナンス・コード」(東京証券取引所)

2021年6月の改定で、取締役会の機能発揮と企業の中核人材の多様性の確保という2点の人的資本情報の開示が義務化されました。

 

関連記事:コーポレートガバナンスとは?意味や目的、強化方法をわかりやすく紹介

 

●「人的資本可視化指針」(内閣官房)

2021年末の岸田首相の所信表明演説の中で、人的資本開示の推進を取り上げました。2022年に入り「非財務情報可視化研究会」において非財務指標の開示について具体的な内容の議論がはじまり、同年8月に「人的資本可視化指針」を発表しました。

 

 

■企業に求められる人的資本開示の具体的な項目とは?

 

人的資本の開示項目は、義務化された法定開示項目と任意開示項目の2つがあります。

●開示義務「法定開示項目」

法定開示項目は、法律によって開示義務が課される項目のことです。法定開示事項には、人的資本と多様性が含まれています。

 

【人的資本】

人的資本は、人材育成方針と社内環境整備方針の2つを記載することとしています。また、従業員の満足度やウェルビーイングに関する開示は有用で投資家に期待されています。

 

【多様性】

多様性については、以下の3項目を記載し、且つ、数値で開示することとしています。

 

・女性管理職比率

・男性育休取得率

・男女間賃金格差

 

この3項目は、既に女性活躍推進法による一般行動計画の策定における選択項目でもあります。また2023年4月には「男性育休取得率」の公表が義務となり、さらに2022年7月改正により一定の従業員規模以上の企業においては「男女間賃金格差」も開示が義務化されました。

 

そのため、金融庁から発表された「企業内容等開示ガイドライン」などでも、既に公表済みの最新情報を記載することによる対応でも特段問題ない旨を示しています。

 

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関連記事:2023年4月施行「育児休業の取得状況の公表義務」について解説

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●戦略的開示「任意開示項目」

任意開示項目に関しては、任意でありながらも開示を渋る企業に対して投資家は厳しく、投資が集まらなくなるリスクもあります。任意開示事項は、統合報告書やアニュアルレポートで取り上げられます。積極的に開示することで、競合他社との差別化を図ることができるでしょう。開示すべき事項が明確に提示されていないことを活かして、会社の特徴を表現することもできるからです。

 

「人的資本可視化指針」では情報開示が望ましい7分野19項目が挙げられています。7分野は、以下の通りです。

 

・人材育成

・エンゲージメント

・流動性

・ダイバーシティ

・健康・安全

・労働慣行

・コンプライアンス

 

また、これら7つの分野にいくつかの項目が紐付き合計19項目となります。この中で、ダイバーシティ(多様性)に関連する開示事項の例としては、属性別の従業員・経営層の比率、育児休業後の復職率、男性育児休業取得率、男女別・育児休業取得従業員数、正規・非正規従業員の福利厚生の差などがあります。

 

 

■人的資本開示のメリット

 

投資家などの要請を受け、国内外で人的資本開示の動きが活発化していますが、そもそも人的資本開示による企業のメリットはなんでしょうか。経営方針の明確化、株主や投資家向けの広報効果、採用活動での差別化の3つのメリットを紹介します。

 

●経営方針の明確化

人的資本情報を客観的に把握することで、経営方針を反映し人的資本に対してどれほど投資できるか、人材戦略の策定をおこなうことができます。

 

関連記事:企業理念とは?経営理念・パーパスとの違いや作り方、浸透方法を紹介

●株主や投資家向けの広報効果

今後、無形資産である人材への評価はさらに重視されていきます。人的資本の情報を開示すれば会社の強みや成長性をアピールすることにもなるため、よい広報となるでしょう。

 

●採用活動での差別化

人的資本情報を積極的に開示することは、採用活動においても競合他社との差別化につながります。人的資本情報を含め、企業情報を可視化することで、 経営戦略に沿った優秀な人材の獲得につながっていくでしょう。

 

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■まとめ

 

2023年3月決算期以降、上場企業に対し人的資本情報の開示が義務付けられました。今後、企業価値の向上という意味においても積極的な開示が求められるでしょう。この流れはさらに強まり、上場企業以外の非上場企業や中小企業にも人的資本開示の要求が高まっていくことが予測されます。

 

投資家やアナリスト、ステークホルダーからの評価や信頼を得るためには、人的資本の情報開示に対する理解を深め、企業の人的資本の価値を向上させることが鍵となるでしょう。

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