人材育成はどの企業にとっても大きな課題となっています。人材育成の手法にはさまざまな種類が登場していますが、2010年代以降に注目を集めているのがリフレクションです。
リフレクションは社員の強み、自主性を引き出す効果的な人材育成手法です。社員の自律性や、自ら学び成長する力がますます求められていく時代にあって、人事担当者はなぜリフレクションが有効なのか、理解を深めておく必要があるでしょう。
この記事では、リフレクションの意味や重要性、効果などを解説します。
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リフレクション(reflection)とは「内省」を意味します。古代ギリシアの時代から哲学の概念として存在している手法であり、個人の成長を促すとしてさまざまな領域で活用されています。
企業内でのリフレクションは、日常業務から離れて過去の自分の行動とその結果を客観的に振り返り、見つめ直して、次のステップにつなげることです。
リフレクションは個人のスキル、マネジメントやリーダーシップを高めるといわれます。個人単位でも有効であり、1on1ミーティングなどの対話を通じておこなうことも効果的です。例えば、北海道大学経済学研究院で2014~2017年にかけておこなわれた「職場におけるリフレクションとアンラーニングに関する実証研究」では、以下が判明しています。
● 上司のコーチングやマネジメントコントロールシステムなどが、集団のリフレクションや個人のリフレクションを促進する
● 個人のリフレクションがアンラーニングを促し、アンラーニングは業績、学習、スキル獲得、自律性を高める
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リフレクションと反省は異なる概念です。反省は、過去の過ちや失敗を振り返って、悪かった点を改めるのが目的です。リフレクションは成功も失敗も含めて客観的に自らを顧みることが目的で、ネガティブな面だけでなくポジティブな面も振り返る対象となります。
そのため、悪かったことばかりがループしてしまう思考に陥らず、改善や成長のために次は何をすべきか?という前向きな思考への切り換えが自然にできるという長所があります。
内省することで人間は成長します。企業がリフレクションを仕組みとして導入すると、以下の効果を期待できます。
自ら考えて行動することが苦手な社員も少なくありません。リフレクションをおこなうと自分の行動を振り返って課題を認識できるので、自分自身で改善し物事を進める自主性がついていきます。
リフレクションをおこなうと過去の行動を客観的に振り返ることになります。これを繰り返すことで自分の業務はもちろん、チーム運営も全体を俯瞰しつつ客観的に分析できるようになります。その結果、個人の能力だけでなくリーダーとしての資質向上も期待できます。
自分自身の過去の行動を客観的に分析することは、新たな発見につながります。過去の仕事の失敗を改めて振り返り、それまで見落としていた失敗の原因に気付いたり、逆に仕事の成功を振り返って成功パターンを見出すこともできます。
また、自己を深く理解していくなかで、自分の強みや独自の思考パターンを発見することもできるでしょう。
リフレクションを通じて得た新たな気付きや発見によって、その人の考え方が変化します。考え方の変化は行動の変容をもたらします。「あの時の行動から得た教訓を活かして、次の行動に活かそう」といった前向きな思考、アプローチがとれるようになります。
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資料ダウンロード | 社会人2年目の実態調査 社会人2年目の実態調査2023 -若手社員は何を求めて働いているのか-
本調査では、社会人2年目(2022年入社)の彼らに新入社員研修を振り返ってもらい、彼らは新入社員研修をどのように捉えていたか、実務で役立った研修や受講の有無に関わらず不足していると感じている知識やスキルは何か、彼らが仕事をする上で重視していること、テレワーク導入・未導入、男女での違いなど若者の本音が見えてくる調査結果となりました。
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リフレクションで、自分の過去の行動を振り返って新しい気付きを得ることを重ねると、考え方が変わり行動も変容します。行動の改善は結果としてパフォーマンスの向上をもたらします。
また、客観的に自分を見つめることで感情や行動をコントロールしやすくもなります。さらに内省はメンタル面や人格の形成にも役立つため、人間的な成長も期待できます。
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例えば、マネージャーがリフレクションを実践してマネジメント能力を向上させると、チーム全体のパフォーマンス改善につながります。メンバー一人ひとりがリフレクションによって成長すれば全体のレベルも底上げされます。
リフレクションによって、自分の経験を客観的に振り返って次に進める自律的な社員が増えると、チーム全体が活性化して自走できる組織になっていきます。
リフレクションは次の①~④のプロセスで実践します。
①振り返る対象を特定する
この段階では特定の事象をピックアップします。必ずしも失敗した事例ではなく、成功した事例でもかまいません。リフレクションでは過去の成功を振り返ることも意義深いことです。
②対象となる事象を複数のステップに分ける
対象となる事象を複数のステップに分解します。例えば、営業で新規顧客の獲得に成功した場合、ファーストアプローチから課題のヒアリング、具体的な提案などのように分解します。
③ステップごとに、良かった点と悪かった点を分析する
ステップごとに良かった点と悪かった点を分析し、さらに分析した内容に共通する事項を考察します。各ステップに共通する事項が行動の特性であり、結果に大きく影響します。
類似するケースではどのように行動するべきか?と今後へ向けた改善を考察します。
このときに失敗の原因を探ることに専念してしまい「誰の原因か」と他責思考になるとリフレクションの効果が薄まってしまうため注意しましょう。
④プロセスの再構築をおこなう
ステップごとに振り返りができたら、それらを再構築し、実際の行動に移していきます。
リフレクションに活用できるフレームワークの中から、特に活用しやすい3種類を紹介します。
YWTは振り返りを目的とするフレームワークです。Yは「やったこと」、Wは「わかったこと」、T は「つぎにやること」を意味します。日本能率協会コンサルティングが考案した日本独自のフレームワークです。
「うまくいったこと」も「うまくいかなかったこと」もすべてが本人の財産であり、次にどう活かすかが重要という姿勢で「反省」「チェック」「コントロール」は禁句としています。特に人材の成長を目指す目的に適しています。[1]
KPTは振り返りを目的とするフレームワークです。「Keep」は良い点の保持、「Problem」は問題点の発見、「Try」は改善の試みを意味します。
KPTは、米国のプログラマーが発案した「反省会の出力サンプル」をベースに日本で開発されたフレームワークです。IT業界のアジャイル開発などに有効活用されていたものが、業界問わず活用されるようになりました。個人の成長にも有益ですが、特にプロジェクト運営、チーム運営に効果的と定評があります。[2]
KDAは将来どのように行動するかを考察するフレームワークです。「Keep」はうまくいっているので今後も継続すること「Discard」はうまくいかなかったのでやめること、「Add」は今後始めるべきことを意味します。
KDAの開発者は不明ですが、YWT、KPTと同じく3ステップの実践的なフレームワークです。ビジネス、個人の領域問わず広く活用されています。
リフレクションは人材育成の手法として非常に有効です。近年はさまざまな教育プログラムが存在しますが、個人の内面を成長させるリフレクションは社員の自主性を育てるため、他の教育プログラムとの相乗効果があります。
また、個人やチーム全体のパフォーマンス向上、ポジティブな企業カルチャーの醸成などさまざまな成果を期待できます。
しかし、人事部門が担うべき役割は、人材採用、研修、エンゲージメント向上、自律的なキャリア開発など多岐にわたります。一方で、社内のリソースには限りがあり、すべてを自社で賄うのは現実的ではありません。
パソナの『セーフプレースメント・トータルサービス』では、自律的なキャリア開発の支援をおこなっています。また『パソナエンゲージメント』は組織や個人の状態を分析し、課題を発見できるプログラムで、離職防止、従業員満足度の向上などに活用できます。
人事担当の方には、このような社外のサービスも活用して、ぜひ自社に最適な施策を実現していただければ幸いです。
2024年04月09日 08:30
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2024年03月26日 08:30
「コンプライアンス」という言葉は、現在ではビジネス用語として定着しています。しかし、その内容を正確に理解していないことから、無自覚のままコンプライアンス違反をしてしまい、問題が生じるケースが依然として少なくありません。 コンプライアンスは、