ワークエンゲージメントとは?意味、測定方法、高める方法を解説

少子高齢化による労働人口の減少が深刻化する日本で、さまざまな企業組織や団体から注目されているのが「ワークエンゲージメント」です。

 

組織の生産性向上において重要視されているものの、似た用語が多いためか、具体的な内容について詳しく理解できていない企業担当者も多いようです。

 

本記事では、ワークエンゲージメントの意味や混同しがちな従業員エンゲージメントとの違い、測定方法、ワークエンゲージメント向上に効果的な施策を解説します。

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■ワークエンゲージメントとは?意味や概要

■従業員エンゲージメントとの違いは?

■ワークエンゲージメントの測定方法

■ワークエンゲージメントを高める方法

■まとめ

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■ワークエンゲージメントとは?意味や概要

ワークエンゲージメントとは「仕事に関して肯定的で充実した感情および態度」を意味する言葉で、従業員の「精神的な健康度」を表す概念であり指標です。2002年に、オランダのユトレヒト大学の教授シャウフェリ氏らによって提唱されました。


具体的には、仕事において以下のような「活力・熱意・没頭」の3つの要素が満たされた心理状態を指します。

 

【ワークエンゲージメント 3要素】

ワークエンゲージメントが高いほど、従業員は仕事から活力を得ている状態です。

 

また、ワークエンゲージメントが高い従業員が多いと、職場には主体的にイキイキと働くカルチャーが醸成されるため、人が定着しやすくなります。ワークエンゲージメントが高い従業員は良好なメンタルヘルスを保っているため、生産性が向上し個人や組織の活性化につながることも期待できるでしょう。


企業を取り巻く経済環境が大きく変化し、少子高齢化による労働人口の減少も深刻化するなか、企業が従業員の離職率を下げ一人ひとりのパフォーマンスを高めるには、従業員のワークエンゲージメントを高める取り組みをおこなうことが重要です。

 

■従業員エンゲージメントとの違いは?

「ワークエンゲージメント」と混同しやすい言葉に「従業員エンゲージメント」があります。

 

従業員エンゲージメントとは、ボストン大学のウィリアム・カーン教授が提示した「従業員が会社やともに働く仲間に深いつながりを感じ、信頼、愛着を持ち、企業理念に共感し、組織や仲間に心から貢献したいと思う心的状態」を表す概念です。

 

違いを簡単に説明すると、ワークエンゲージメントは「仕事に対する肯定的で充実した心理状態」であり、従業員エンゲージメントよりも心理的に対象としている領域が狭くなります。

 

●ワークエンゲージメントの主な構成要素:仕事への「活力」「熱意」「没頭」

●従業員エンゲージメントの主な構成要素:会社への「理解度」「共感度」「行動意欲」

 

構図としては、従業員エンゲージメントの中にワークエンゲージメントの持つ要素が内包されていると言ってもよいでしょう。

 

従業員エンゲージメントを高めるために必要なパルスサーベイとは?

 

■ワークエンゲージメントの測定方法

ワークエンゲージメントの一般的な測定手法は「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(以下、UWES)」です。複数のバージョンがあり「UWES-17」は17項目、短縮版の「UWES-9」は9項目、超短縮版の「UWES-3」は3項目の質問で構成されます。

「仕事中は活力がみなぎっているように感じる」「仕事に熱心である」「仕事にのめり込んでいる」など、ワークエンゲージメントの「活力」「熱意」「没頭」の3要素を質問に盛り込むことで、ワークエンゲージメントの状態を判定しています。回答は7段階あり、選択してもらった上で「活力」「熱意」「没頭」の3項目それぞれの平均値を算出し、ワークエンゲージメントのスコアとします。


UWESは、ワークエンゲージメントの国際比較、雇用形態別比較、年代別比較などに幅広く用いられています。以下に2種類のワークエンゲージメント調査の概略をご紹介します。

労働政策研究・研修機構が実施した国内企業を対象としたワークエンゲージメント調査(2019年)では以下のような傾向が見られました。

 

●男性と比較し女性のワークエンゲージメントはやや高い

●加齢、職位・職責が高まるとワークエンゲージメントは高くなる傾向がある

●39歳以下の正社員は、年収増加に伴いワークエンゲージメントが高まる傾向があるが、40代以上にはその傾向が見られない

 

また、日本を含めた16ヶ国のワークエンゲージメントスコアを比較した 論文(Shimazu,Schaufeli, Miyanaka, & Iwata(2010年))では、ワークエンゲージメントスコアの順位は1位フランス、2位フィンランド、3位南アフリカで、日本は16ヶ国中16位と最下位となっています。

 

なお、この結果について、厚生労働省のサイトでは、感情表出が文化傾向によって異なることを考慮しなければならないとただし書きをしているものの、海外と比較すると仕事に対してポジティブな感情を持つ従業員が多くないことはうかがえます。

 

■ワークエンゲージメントを高める方法

では、従業員が心身の健康を保ち、仕事にやりがいを感じイキイキと没頭して働き続けるために、企業はどのような取り組みを進めればよいでしょうか?

 

一つには「JD-Rモデル(仕事の要求度-資源モデル)」という産業心理学からのアプローチがあります。

 

JD-Rモデルでは「仕事の資源」と「個人の資源」に注目します。

 

●仕事の資源:仕事の量、上司や先輩、同僚などの外部・組織内要因で、個人を活性化するもの。

 

●個人の資源:自己効力感やレジリエンス(しなやかに困難を乗り越える力)のことで、個人が持っているポジティブな心理状態を生み出すもの。


この2つの資源は、一方が高まればもう一方も高まることが研究でわかっています。
具体的に企業で取り組みたい施策は次の4点です。

 

1       明確な目標の設定

明確な目標を決定し達成できるように計画立案から期限設定までを支援します。今すべきことを明確化することで従業員一人ひとりに目的意識ややりがいが芽生え、仕事へのモチベーションが高まることが期待できます。ある程度チャレンジが必要な仕事、これまでよりハードルの高い業務をあえて任せてみることも、成長やワークエンゲージメント向上につながるでしょう。

 

2       適切なフィードバック

従業員の仕事に対する適切なフィードバックをおこない、成果や課題を共有すること。1on1などを活用し、上司と部下が信頼関係を築きながらサポートやアドバイスをおこなうことで、ワークエンゲージメントを高めることが期待できます。成果を上げるために必要な学びの機会を提供することも有効です。

 

3       人事評価制度の見直し

成果を上げた従業員を正当に評価する仕組みを構築します。表彰、ボーナス、昇給などさまざまな報酬制度を設けて多くの従業員のワークエンゲージメントを高めることがポイントです。一人ひとりが意欲的になれるように努力やがんばりに応えられる人事評価制度を構築しましょう。

 

4       職場環境の改善

多くの調査結果の離職理由の上位には、常に「人間関係」が入ります。良好な人間関係が保たれ、従業員同士が積極的に意見交換できるような風土を醸成することが重要です。ただし、言葉で奨励するだけではカルチャーはなかなか変わりません。サンクスカード、ピアボーナスなど、ポジティブな雰囲気を生み出す仕組みの導入が望ましいでしょう。

 

また、カフェやリフレッシュスペースなどを職場に設置すると、ストレスが解消できるだけでなく従業員同士のコミュニケーションが促進されるので、ワークエンゲージメント向上が期待できるでしょう。

 

■まとめ

ワークエンゲージメントとは「仕事に関して肯定的で充実した感情および態度」を意味する言葉です。具体的には仕事に対して「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素が満たされた心理状態です。

 

「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)」を用いたワークエンゲージメント国際調査では、日本は16ヶ国中16位という低い水準に位置しています。おそらく多くの企業は、従業員のワークエンゲージメントに目を向ける必要があるといえるでしょう。

 

ワークエンゲージメントを高める施策には、産業心理学に基づいた複数のアプローチがあります。明確な目標設定、適切なフィードバック、人事評価制度の見直し、職場環境の改善などから自社で実施可能な施策を選び、ワークエンゲージメント向上に取り組んでいきましょう。

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