育児時短就業給付とは?背景や条件、懸念点を解説

2024年04月09日 08:30 #人事トレンド#女性活躍推進

 

2025年度からの実施が予定されている「育児時短就業給付」。子育て中の時短勤務者を対象とした給付制度であり、政府が推し進める少子化対策の一つです。給付金を支給することで、時短勤務による収入減をカバーし、子育て期における「共働き・共育て」を推進するねらいがあります。

 

この記事では、新たに創設される「育児時短就業給付」を取り上げ、導入される背景や給付の条件、実施にあたって懸念される事項などをわかりやすく解説します。

 

※本記事は2024年3月時点の情報をもとにまとめています。

 

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■育児時短就業給付とは

■育児時短就業給付の背景

■育児時短就業給付はいつから

■育児時短就業給付のメリット

■育児時短就業給付の懸念点

■まとめ

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■育児時短就業給付とは

 

育児時短就業給付とは、育児を目的とした時短勤務による収入の低下に対して給付金を支給する制度です。具体的には、2歳未満の子どもを育てながら時短勤務で働く従業員を対象に、時短勤務中の各月に支払われた賃金額の10%を支給する方向で検討が進んでいます。給付金によって賃金の減少を補うことで、育児中の従業員が時短勤務を選択しやすい環境をつくり、子育てとキャリア形成の両立を支援するのが目的です。

 

●短時間勤務制度

 

すでに運用されている短時間勤務制度(所定労働時間の短縮措置)とは、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮して働く制度のことです。育児を理由とした時短勤務の場合、対象は3歳未満の子どもを育てる男女従業員で、期間を定めて雇用されている従業員も含みます。

 

短時間勤務制度は育児をしながら働く従業員への両立支援になるものの、実労働時間が少なくなる分、フルタイム勤務と比べて収入が減ってしまいます。育児時短就業給付が始まると、時短勤務による収入減を補えるため、子育て期の柔軟な働き方として時短勤務を選びやすくなることが期待されています。

 

■育児時短就業給付の背景

 

育児時短就業給付が創設される背景には、急速な少子化による労働人口の減少があります。

 

厚生労働省が取りまとめた人口動態統計によると、2023年の出生数は75万8631人となり、8年連続で減少しています(「人口動態統計速報(令和5年12月分)」より)。前年と比べて5.1%減少し、1899年の統計開始以来、最低の数字となりました。

 

このままのペースで少子化が進行すると、将来的に社会機能を維持できなくなるのは明白です。急速な少子化・人口減少に歯止めをかけるべく、日本政府は「次元の異なる少子化対策」としてさまざまな制度の導入を進めています。

 

●こども未来戦略方針

 

育児時短就業給付は、2023年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」における少子化対策の一つです。日本においては、子育てしづらい社会環境や育児と仕事を両立しにくい職場環境が課題となっており、子育て政策を強化するうえで乗り越えるべきハードルと考えられています。

 

育児時短就業給付は「共働き・共育ての推進」を目指して創設される制度であり、子育て期における従業員の働き方を支援するものです。給付金の支給によって賃金の減少を抑えることで、育児中の従業員に時短勤務の活用を促すねらいがあります。ほかにも、テレワークの努力義務や子の看護休暇の年齢引き上げなど、子育てをしながら働く従業員が利用しやすい柔軟な制度の導入が検討されています。

 

参考資料:こども未来戦略方針|厚生労働省

 

 

■育児時短就業給付はいつから

 

育児時短就業給付は新たな給付制度であり、子育て中の時短勤務者を対象に育児休業給付とは別に支給されます。具体的な制度設計や関連法案の決議を経て、2025年度から実施する予定で進められています。

●支給条件

 

育児時短就業給付の支給条件は以下のとおりです。

 

· 2歳未満の子どもを養育する時短勤務者であること

· 時短勤務開始日前の2年間にみなし被保険者期間が12か月以上あること
 

みなし被保険者期間とは「被保険者期間に相当する期間」のことで、時短勤務を開始する日を被保険者でなくなった日(資格喪失日)とみなして計算します。支給条件に性別による制限はなく、男性と女性どちらも給付の対象となります。

 

なお、従業員の柔軟な働き方を支援する観点から、給付対象とする労働日数や時間に制限は設けない方針です。

 

●支給金額

 

育児時短就業給付の給付率は、時短勤務中の各月に支払われた賃金額の10%です。

 

注意点として、時短勤務中の賃金額と支給される給付額の合計が、時短勤務前の賃金額を超えないように調整する必要があります。仮に従前の賃金額を超えた場合には、給付率を下げるべきとされています。

 

■育児時短就業給付のメリット

 

育児時短就業給付のメリットとして以下の点が挙げられます。

 

●時短勤務の利用促進

 

厚生労働省の委託事業として⽇本能率協会総合研究所が実施した調査によると、正社員の女性が育児のための短時間勤務制度を利用しなかった理由は「収入が減るため」がもっとも多く、その回答割合は38.1%でした(「労働者調査 結果の概要」より)。正社員の男性も36.5%が「収入が減るため」と答えており、男女ともに時短勤務による収入減が制度を利用するうえで大きな足かせとなっていました。

 

育児時短就業給付が導入されると、これまで収入減を理由に時短勤務を選ばなかった従業員も制度を利用しやすくなります。つまり、給付金によって賃金のマイナスを補うことが、時短勤務の利用促進につながると考えられます。

 

●育児とキャリア形成の両立

 

厚生労働省の資料によると、離職前に正社員として勤務していた女性が「利用すれば仕事を続けられたと思う支援・サービス」として、45.2%が「1日の勤務時間を短くする制度(短時間勤務制度)」を挙げています(「育児時短就業給付(仮)の創設について」より)。

 

通常よりも労働時間を短縮し、育児と仕事の両立による負担が減ると、育児を理由とした離職も防ぎやすくなります。育児時短就業給付によって、子育て中の従業員が収入減を気にせずに時短勤務を選べるようになれば、育児とキャリア形成の両立につながることが期待できます。

 

●共働き・共育ての推進

 

新たな給付制度によって男女ともに柔軟な働き方を選択できるようになれば、育児時短就業給付の目的でもある「共働き・共育て」が実現します。この制度は男女ともに、時短勤務を活用した育児とキャリア形成の両立を支援するという考えがあります。夫婦でうまく時短勤務を組み合わせれば、育児と仕事の両立による負担が減り、それぞれのキャリアを継続することができるでしょう。

 

 

■育児時短就業給付の懸念点

 

育児中の従業員を金銭的に支援する育児時短就業給付ですが、導入にあたってはいくつか懸念事項があります。制度を利用する従業員への影響と、制度の対象とならない周りの従業員への影響です。具体的には以下の2点が考えられます。

 

●マミートラックの助長

 

育児時短就業給付の懸念点として、制度を利用する従業員の時短勤務が長期化し、マミートラックを助長させるおそれがあることが挙げられます。マミートラックとは、女性が産休や育休から職場復帰した際に、本人が望んでいないにもかかわらず担当業務や部署、勤務時間を変更され、出世コースから外れてしまうことをいいます。育児時短就業給付のような賃金補填をおこなうと、時短勤務を延長する従業員が現れ、本人のキャリア形成を阻害する可能性があると指摘されています。

 

関連記事:マミートラックとは?意味や問題点、企業に必要な対策を紹介

 

●フルタイム勤務者のモチベーション低下

 

育児時短就業給付は育児を理由に時短勤務で働く従業員を対象としており、フルタイム勤務者は対象外となります。この制度が始まると、労働時間を短縮して働く従業員も通常の所定労働時間で働く場合と同程度の収入を得られるため、フルタイム勤務者のモチベーション低下を引き起こす可能性があります。時短勤務者にとっても肩身が狭くなり、職場内での分断が深まる恐れが指摘されています。対象を限定した制度である分、フルタイム勤務者などほかの従業員との間で不平等が生じないような制度設計が求められます。

 

■まとめ

 

2025年度から始まる予定の育児時短就業給付は、2歳未満の子どもを育てながら時短勤務で働く従業員を対象とした給付制度です。これまでは時短勤務によって賃金が低下した従業員に対する給付制度はなく、働く男女の多くが「賃金が減る」ことを理由に時短勤務を選ばない選択をしていました。育児時短就業給付の導入によって時短勤務の利用が促進され、育児とキャリア形成の両立につながることが期待されています。

 

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