キャリアオーナーシップとは?企業が取り組むメリットや方法を紹介

2023年03月14日 08:00 #人事トレンド

終身雇用制度の維持が難しくなり人材の流動性が高まるなか、働く人にとって「キャリアは企業から与えられるものではなく、自身で作り上げるもの」という認識が不可欠になりつつあります。さまざまな制約や条件のもとで、自身に合った働き方を選択したり、有効なスキルを獲得し社会で活躍したりするためには、みずからのキャリアについて主体的に考え行動する「キャリアオーナーシップ」が重要です。

 

この記事では、キャリアオーナーシップの考え方や企業が取り組むメリット、事例からみる具体的な取り組み方法について解説します。

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■キャリアオーナーシップとは

■キャリアオーナーシップに企業が取り組むメリット

■企業事例でみるキャリアオーナーシップに取り組む方法

■まとめ

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■キャリアオーナーシップとは

 

キャリアオーナーシップとは、個人が生涯のキャリアにおいて「どうありたいか」を意識し、その実現に向けて主体的に行動することを指します。

 

キャリアオーナーシップが注目される理由には、人生100年時代の到来が個人の働き方や生き方に変化をもたらし、人生のステージが流動的になってきていることが挙げられます。従来は「学ぶ→働く→引退する」の一方通行だったステージが今後、「学ぶ」と「働く」が一体化。長く働くためにスキルアップに努める、働きながら学びを継続する、組織に属さない形で生産的な活動に携わるなど、個人の状況に応じて「学ぶ」と「働く」のステージを行き来すると考えられています。

 

このような状況下で必要となるのが「キャリアは企業から与えられるものではなく、自身で作り上げるもの」という考え方です。今後は個人がみずからのキャリアのあり方を考え主体的に行動するキャリアオーナーシップに則り、企業や組織に依存せずキャリアを開発する「キャリア自律」が不可欠となります。

 

キャリアオーナーシップによる社員のキャリア自律は、組織の生産性やエンゲージメントの向上につながるものであり、社員のキャリア開発をサポートする立場としての役割を果たそうとする企業が増えています。個人が取り組むキャリアオーナーシップには「多様な働き方の選択」「知識・スキルを発揮する場面の選択」「人的ネットワークの構築」、企業が取り組むキャリアオーナーシップには「社内公募制度の拡大」「研修やキャリア相談などのキャリア開発支援」「副業の解禁」などが挙げられます。

 

関連記事:キャリア自律とは?キャリア開発との違いや企業による支援の現状を解説

 

 

■キャリアオーナーシップに企業が取り組むメリット

 

キャリアオーナーシップは社員個人のキャリアを考えるものであり、企業として支援するものではない、また支援することで離職につながるのではないかと考える人もいるでしょう。しかし、キャリアオーナーシップの取り組みは企業成長につながるさまざまなメリットを享受できることから、実際には多くの企業が社員のキャリアオーナーシップを推進しています。

 

ここでは、キャリアオーナーシップに企業が取り組むメリットをご紹介します。

 

●生産性の向上

 

キャリアオーナーシップを推進し社員の主体性を育むことで、成果を出すためにみずから考え行動できる人材が増え、企業の生産性の向上に期待が持てます。また、社員が知識やスキルを習得し専門性が高まることで、個々の能力を最大限に発揮できる適材適所の人材配置が実現し、さらなる企業の発展につなげられます。

 

●エンゲージメントの向上

 

キャリアオーナーシップに取り組むと、1on1ミーティングやキャリア研修などにより、上司・人事部と社員との間でコミュニケーションが増加します。上司が社員を、社員が組織をより深く理解できる機会が増えることでエンゲージメントが向上し、さらに組織に対する愛着や心理的安全性が高まることで離職率の低下にもつながっていきます。

 

関連記事:従業員エンゲージメントを高めるために必要なパルスサーベイとは? 

 

●モチベーションの向上

 

キャリアオーナーシップの取り組みを通じて、社員は将来のビジョンを明確に持ち、前向きに仕事に取り組むようになります。通常の業務のなかでも成果を出す方法や改善する方法を考えながら主体的に取り組めるようになり、その姿勢や結果を企業が評価することで、高いモチベーションの維持が期待できます。

 

●優秀な人材の確保

 

キャリア形成の重要性を認識している優秀な人材は、キャリアオーナーシップの推進により社員のキャリア開発支援を積極的におこなっている企業に魅力を感じます。キャリアオーナーシップの取り組みについてコーポレートサイトや採用サイトなどで紹介することで、キャリアアップの意欲を持つ求職者を集めやすくなり、優秀な人材の確保につなげられるでしょう。

 

 

■企業事例でみるキャリアオーナーシップに取り組む方法

 

企業が取り組むキャリアオーナーシップでは、対話や経験を通じて社員が自身のキャリアについて主体的に考える機会を提供する必要があります。ここでは、実際に企業が取り組んだ方法について事例とあわせて紹介します。

 

●JTB:キャリア研修・面談

 

キャリアの振り返りや将来のイメージにより、今後のキャリア目標や行動計画を明確化する「キャリア研修・面談」は、社員が気づきを得て成長していくための重要な場となります。

 

国内最大手の旅行会社JTBでは、若手社員のキャリアアップ研修や年代別(28歳・36歳・46歳・56歳必修)のキャリアデザイン研修、29歳と56歳を対象としたキャリアデザイン面談などを実施し、社員がみずからのキャリアを考える多様な機会を提供しています。キャリアデザイン研修後のアンケートでは96%の社員が「有意義だった」と回答、キャリアデザイン面談後も85%が「自身の今と将来にとって役立った」と回答しており、社員から高い評価を得ていることがわかります。

 

●TIS:1on1ミーティング

 

企業が社員のキャリア開発支援に取り組むうえで、また企業の成長と個人の成長を一致させるうえで重要となるのが「企業と個人の対話の充実」です。

 

ITサービスを提供するTISでは、安心安全な場での対話を通して社員が内省する機会を増やす取り組みとして、上司と部下が1対1で対話をおこなう「1on1ミーティング」を実施しています。役職者全員が傾聴とコーチングを学んで1on1に臨み、テーマはキャリアや能力形成などから部下が自由に決めて対話をおこなうことで、社員が行動を起こすための気づきを得る機会となっています。

 

関連記事:1on1ミーティングの目的とは?メリットや実施ポイントを紹介

 

●ボストン・サイエンティフィック ジャパン:社内公募制度

 

個人が成長するためには、主体性を持った経験学習などを通じて得られる「経験」が重要であり、企業はこれらの機会を社員に提供することが求められます。

 

医療機器の製造・輸入・販売をおこなうボストン・サイエンティフィック ジャパンでは、キャリアオーナーシップをキーワードとした主体的なキャリア形成支援に「社内公募制度」を活用しています。2018年よりオープンポジションの社内共有を月次で実施、社員からの応募を継続して受け付けており、2019年からは管理職登用も原則公募制としました。

 

2年間で社内公募数はのべ230ポジション、応募者数は188名にのぼり、キャリアシフトや管理職に挑戦する機会、また意思表明の場としても機能しています。手を挙げて挑戦する文化が社内に根づき、自律的に学び成長する社員の姿が見られるようになりました。

 

●富士通:社内インターン制度

 

現在の部署以外の業務に興味を持つ社員の希望を叶え、一定期間従事する機会を提供する「社内インターン制度」もキャリアオーナーシップを育むうえで有効です。

 

総合電機メーカーの富士通では、元の部署に戻ることを前提に、社員が希望する部署で異なる業務を経験できる短期異動制度「Jobチャレ!!」を導入しています。半年間のインターンにより普段とは異なる業務や新たなプロジェクトの立ち上げを経験するなかで、元の部署でのスキルをより磨いていきたいと感じたり、プロジェクトの推進を継続し挑戦を重ねていきたいと決意したりと、社員がそれぞれに刺激を得てキャリアのビジョンを明確にしています。

 

 

■まとめ

 

社員がみずからのキャリアについて主体的に考え行動する「キャリアオーナーシップ」は、人生100年時代における個人のキャリア実現や、持続的な企業成長を考えるうえで重要な取り組みとなっています。企業には、対話や経験を通じて社員が自身のキャリアについて考える機会を提供することが求められており、その方法にはキャリア研修や1on1ミーティング、社内公募制度などが挙げられます。

 

社員のキャリア開発を支援するノウハウやリソースが不足している、キャリアオーナーシップの推進に向けて人事担当者のスキル向上を図りたいという場合は、外部の支援サービスを利用するのも一つの方法です。

 

パソナが提供する「セーフプレースメント・トータルサービス」では、ライフキャリアプラン研修や専門コンサルタントによる個別キャリアカウンセリングを通して、社員の自律的なキャリア形成を実現するための支援を提供しています。人事担当者向けの研修・講座もあり、上司や企業に寄り添うトータルサービスとなっています。キャリアオーナーシップの取り組みを始める際は、支援サービスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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