エイジズム(年齢差別)とは?企業にもたらす損失と克服するための対策を紹介

2023年10月24日 08:30

「シニアだから負担の少ない業務がよいだろう」「若い人にはまだ責任の重い仕事は任せられない」といった言動は、おそらく日本のオフィスでは珍しくないでしょう。多くの場合、相手に対する配慮を含んで用いられる言葉であり、違和感を覚える人は少ないかもしれません。

 

しかし、近年これらの言動は、個人の特性を無視して単に年齢だけを根拠にしたエイジズム(年齢差別)とも呼ばれます。エイジズムについては、まだ認知度はあまり高くありませんが、高齢化社会の深刻化とともに日本でも注目を集めるトピックになりつつあります。

 

この記事では、エイジズム(年齢差別)の具体例や、エイジズムが企業にもたらす損失、克服するための対策を紹介します。

 

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■エイジズム(年齢差別)とは?

■エイジズム(年齢差別)のビジネスシーンにおける具体例

■エイジズム(年齢差別)が企業にもたらす損失

■エイジズム(年齢差別)が企業内で発生する背景

■企業におけるエイジズム(年齢差別)対策のポイント

■エイジズム(年齢差別)克服のために企業がおこなうべき対策

■まとめ

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■エイジズム(年齢差別)とは?

 

エイジズムとは、1969年に米国の老年医学者ロバート・バトラー(Robert N Butler)氏によって提唱された言葉です。現在は、広義では「年齢のみを理由にしたあらゆる年代に対する差別や偏見」、狭義では「高齢者に対する年齢差別」を意味します。

 

先進国においてエイジズムは、レイシズム(人種差別)やセクシズム(性差別)と並ぶほどの重大な差別といわれています。

 

WHOはエイジズムについて、年齢を根拠にする「固定観念」「偏見」「差別」の3点があることを指摘しています。本来、人間の個性や能力は年代でひとくくりにできないにもかかわらず、年齢による「固定観念」「偏見」に根ざした「差別」をおこなうことがエイジズムです。

 

■エイジズム(年齢差別)のビジネスシーンにおける具体例

 

シニア世代は「ITが苦手」「新しい発想に乏しい」といった意見は、エイジズムの典型例だといえるでしょう。近年はメディアで「働かないおじさん」というキーワードがネガティブに用いられますが、これもエイジズムに相当するといえます。

 

また、企業において年齢のみを理由として研修の機会を与えられなかったり、昇進の機会が限定されたりすることもエイジズムです。意外かもしれませんが、定年制度も該当します。

なぜなら、根本的な問題として、定年制度は年齢を根拠として全員を一律に取り扱っているからです。

 

個々の能力やパフォーマンスを正当に評価しているとは言い難く、エイジズムの制度化という側面は否めないでしょう。

 

関連記事:役職定年とは?制度内容や実態、定年後の人材活性について解説

 

■エイジズム(年齢差別)が企業にもたらす損失

 

エイジズムへの対策を怠っていると企業に損失をもたらすことが複数の調査で報告されています。例えば、WHOのレポートでは米国の大企業で年間に約5000日間分の無断欠勤が発生し、損失額は約60万ドルにのぼるという推計があります。

 

日本では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査で、役職を降りたあとに仕事に対する意欲が「下がった」人は59.2%も占めたという結果が出ています。モチベーションの低下によるパフォーマンス低下が懸念されます。

 

さらに、エイジズムによって斬新なアイデアを持つシニア人材の活躍の場がなくなったり、人材配置を誤ったりする可能性もあります。エイジズムが蔓延する職場は世代間の分断をもたらしやすいので、職場の連帯感が失われるリスクも出てくるでしょう。

 

■エイジズム(年齢差別)が企業内で発生する背景

 

2022年に、総合人事コンサルティング会社フォー・ノーツが実施した調査によると、勤務する会社の人事評価制度が「年功序列である」「やや年功序列である」と回答した人は7割以上を占めました。

 

また、回答者を「年功序列」グループ「年功序列でない」グループごとに分けて比較したところ「給与や処遇を含め、人事評価に納得できない」という回答が「年功序列」グループは71.8%、「年功序列でない」グループは42.0%とかなりの差が出ました。

 

日本に多い年功序列型の人事制度では、若手はチャンスも報酬も長期間待たなくてはならず、不満がたまりやすい傾向があります。不公平感は若手社員の転職意欲を刺激するだけでなく、シニア社員への排他的な感情も助長するので、エイジズムが発生する土壌となりやすいでしょう。

 

(参考資料:「年功序列をはじめとする人事評価制度に関する意識調査」アンケート結果 - オフィスのミカタ

 

■企業におけるエイジズム(年齢差別)対策のポイント

 

エイジズム対策には二つのポイントがあります。まず、シニア社員に対する教育機会の拡充です。日本企業の多くはこれまでシニア社員の活躍を後押しする取り組みに消極的で、若い世代と比べるとシニア社員は学ぶ機会が限定的でした。

 

現在のようなビジネス環境が激変している時代は、昔学んだ知識がすぐに陳腐化します。継続的に教育研修の機会を提供しないと、今のシニアだけでなく将来のシニアも「働かないおじさん」といわれるようになりかねません。

 

二つ目は、若手社員がシニア社員の処遇に対して不公平感を感じやすい構造的課題を解決することです。新卒採用を主体とする以上、完全なジョブ型人事の実施は難しいものの、将来的には、入社後一定のキャリアをつんだ従業員に対して成果と処遇が見合った人事評価制度にすることが望ましいでしょう。

 

■エイジズム(年齢差別)克服のために企業がおこなうべき対策

 

エイジズムを克服するためには「現状把握」「意識改革」「教育研修」をセットで実施する必要があります。

 

●定量的な調査の実施

まず、定量的な調査を実施して、自社の現状を把握することが必要です。このとき指標として用いたいのが「日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版」です。これは高齢者に対するエイジズムに特化した指標なので、実用性が高いでしょう。

(参考資料:日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版の作成

 

●シニア社員に関わる意識改革

上司、本人、同僚の三者ともに意識改革をおこなうことが重要です。上司は本人に対して期待を伝えつつ、目標や業務内容を提示することが求められます。本人は自分の強みや役割を認識することが大切です。

 

同僚は年齢を意識しないコミュニケーションをとりましょう。年齢ではなく、お互いのスキルや経験の違いを尊重することがポイントになります。シニア社員に関わる全員の意識改革が、エイジレス施策を成功させるための前提です。

 

●リスキリング

現代はテクノロジーが発展し社会情勢も目まぐるしく変化します。ITやAIなど先端的なスキルを持つ若手は人材としての価値が常に高くなりがちです。ここでシニア社員を放置していると就労意欲が低下しかねないだけでなく、若手社員との知識の乖離がおき業務上共に働くことが難しくなっていきます。

 

リスキリングを通じて、新たなスキルを学び技術革新やビジネスモデルの変化に対応できれば、シニア社員のスキルアップは可能です。また、若手からの提案を理解できるようになるため、シニアの知見と若手のアイデアが融合し、イノベーションが起きることも期待できるでしょう。

 

関連記事:70歳で定年?企業がミドル・シニア世代へキャリア形成支援をおこなう意味とは

 

●アサーショントレーニング

アサーションとは、他者を尊重しつつ率直に自己表現するコミュニケーションスキルです。このスキルを身に付けると、価値観や考え方の異なる相手と対等に意見交換をおこなえるようになります。

 

アサーショントレーニングは現在では学校教育でも取り入れられています。しかし、シニア社員はそのような教育を受けた経験がありません。このため、アサーショントレーニングを実施して、コミュニケーションスキルを高める有用性は高いといえるでしょう。 

 

●ダイバーシティ&インクルージョン研修

年齢や価値観の異なる社員が、自分の能力を最大限に発揮して働く職場を作るためには、多様性を尊重する企業文化の形成が重要です。

 

具体的にはダイバーシティ&インクルージョン研修を全社員に実施し、社内でのポジションはあくまで役割の違いであり、誰もが年齢や性別、信条などによって差別や偏見を持たれず、尊重される必要があることを理解してもらう必要があります。

 

フラットなコミュニケーションが浸透していけば、多様性を尊重する企業文化を徐々に形成していけるでしょう。

 

■まとめ

 

エイジズムは年齢だけを理由にした偏見や差別であり、これから超高齢化社会に入っていく日本では社会問題だといえます。もちろん、企業においても克服すべき課題になっていくでしょう。

 

しかし、視点を変えてエイジズムを克服することにより、優秀なシニア社員の活躍が期待できるようになります。まずは、シニア社員、ミドル社員への教育・研修を体系的に構築する必要があるでしょう。これは、現在の若手社員がシニアになったときに能力を発揮し続けることにもつながります。

 

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