2024年04月23日 08:30 #セカンドキャリア支援 #女性活躍推進 #健康経営
近年は、禁煙のために研究されてきた「行動変容」というテーマが健康経営やミドルシニアのキャリア支援の領域で注目を集めています。
人がこれまでの習慣を見直し、新しい行動パターンを身につけることは容易ではありません。これは多くの人が思いあたるでしょう。しかし、行動変容のプロセスを理解し必要な働きかけをおこなうことで、スムーズに変化できるようになります。
この記事では、行動変容の5つのステージと企業で実践できるアプローチについて解説します。
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行動変容とは、人の意識が変わり行動や習慣が変わることです。
元々は米国の健康領域において研究が進んだテーマであり、1980年代に禁煙プログラムの研究から生まれた「行動変容ステージモデル」は、その効果によって各方面から広く注目を集めました。
近年、行動変容ステージモデルは日本の健康・医療・保健の領域でも活用されています。また、マーケティングや人事マネジメントなどのビジネス領域でも注目されつつあります。
多くの人は自分を変えたいという思いを持ちながら、なかなか変えることができません。定期的な運動や食生活の改善、スポーツジムに通うなどの目標を立てても継続できる人は少数派でしょう。
これは、人の心にはアンビバレンスな性質があるためです。人は変わりたいという気持ちと無意識下では現状を維持したいという気持ちをもっており、心が常に揺れ動いています。
そのため「思いがあっても行動に移せない」「行動に移せても継続できない」ということがしばしば起こります。
行動変容ステージモデルでは、人が変容するときには「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の5つのステージを経ると考えられています。このプロセス及び各ステージで人の心理状態がどうなるかを理解して、行動変容の計画を立てることが大切です。
以下に5つのステージの特徴を解説します。
無関心期とは、6か月以内に行動を変えようと思っていない時期です。そもそも自分の行動に問題があると認識しておらず、差し迫った危機意識はありません。変化への意識が芽生える前段階なので、必要性や重要性も感じていません。
たとえば健康面であれば、体調不良などの自覚がないために喫煙や過度の飲酒・過食などの習慣を気にしないといった時期です。無関心期の人は、多くの場合そのテーマに対する情報不足の状態にあります。
関心期とは、何かしらの問題を自覚しており、6か月以内に行動を変えようと思っているステージです。健康面であれば健康診断で異常が見つかったり、身近な人の健康状態に変化があったりすることで、自身の生活習慣に変化を求める気持ちが芽生えてきた段階です。
関心期に入ると、人は自身の行動や習慣について考え、改善する必要性や可能性について興味を持ち始めます。人によっては変化に向けて情報を集めたり自己評価をおこなったりします。
準備期とは、1か月以内に行動を変えようと思い、具体的に情報を集めたり行動計画を立てたりするステージです。変化へのモチベーションが高い時期であり課題意識も強く、目標を掲げて自分の理想のイメージに向かって、どのような行動をいつまでにおこなうかを計画します。
この時期は、自分は変化できるという自己効力感も高めです。健康面であれば食生活の改善計画を詳細に立てる、ジムに申し込むなどの準備をします。
実行期とは、行動を変えて6か月未満の時期です。健康面であれば定期的にジムに通い始めたような時期です。行動を変えたメリットをすぐに感じる人もいれば、成果がなかなか出ないと感じる人もいます。習慣を変えたことで、自覚の有無は別としてストレスを感じやすい状態になっています。
実行期は気持ちが揺れ動きやすく、成果を感じられなかったり外部からの刺激があったりすると、元の状態に戻ってしまいやすい時期でもあり注意が必要です。
行動を変えて6か月以上たった時期です。維持期では新しい習慣や行動が定着し、日常生活の一部となっています。継続できたことによる自信もついてきているため、変化が持続しやすい状態になっています。
この維持期に習慣を定着させることが非常に重要です。外部のストレスに上手に対処したり、新しい目標を設定したりするなどして成長や向上を目指すことでマンネリを防ぐなど、行動の変容を完全に定着させるための工夫や動機づけをおこなうことが大切です。
人によって行動変容のどのステージにいるかは異なるので、ステージを特定することと各ステージに合わせた働きかけをすることが大切です。
無関心期は、本人が問題に興味がなく知識も少なく困ってもいない段階なため、外部から気づきを促す働きかけが必要です。健康面であれば定期的な健康診断受診の機会や健康に関するセミナーの開催などがあります。変化を経験した人の成功事例や体験談を共有するなどメリット面を強調するのもよいでしょう。
行動を変容させるメリットとこのままでいるデメリットを感じてもらうことがポイントです。本人だけでなく自分が与える周囲への影響にも目を向けてもらうことも有効です。
関心期は、動機付けを促す働きかけをおこないます。この時期は行動変容の必要性を理解はし始めていますが、不安や抵抗の心理が生まれる時期でもあります。また、変容のメリットだけでなくデメリットも懸念するステージです。
そのため、適切な情報提供によって不安を取り除いてもらうことが大切です。情報提供する側と受ける側の信頼関係も重要なステージなので、課題によっては専門家からのアドバイスを受けられるような環境づくりをするとよいでしょう。
準備期の働きかけは、ポジティブな成果が得られることに目を向けてもらえるように、具体的な方法の選択と決定のためのサポートをおこないます。具体的には、有用な情報の提供、必要なツールや専門家のサポートなどがあります。提供したいプログラムがある場合、申込日程の案内など行動に移るきっかけとなる情報を提供します。
この時期は本人の変化に対するモチベーションが高い時期なので、いろいろなことを自己決定できるようにサポートすることが大切です。
実行に移ったステージでは、小さな変化をポジティブに認めて賞賛するようなサポートが有効です。「行動を起こしたこと」「変化を起こしたこと」自体が素晴らしいという振り返りをすることで、変化を継続しようというモチベーションが高まります。
本人だけでは難しい面もあるため、カウンセラーやコーチなどのサポートがあるとよいでしょう。順調に変容できた人でも第3者がアシストすることによって、さらに変化を継続していく意欲が高まります。
行動変容のステージを進んだ人が、前のステージに戻ってしまう「逆戻り」はしばしば起こります。
特に実行期に起こる傾向があります。また、維持期に入った人でも身近な人の影響や何らかのきっかけによって逆戻りすることがあります。以前のステージに戻ってしまうと一般に自己効力感が低下します。
ただ、逆戻りが起きても本人が自覚すれば再び行動を変容することは可能です。むしろ、逆戻りはある程度起こりうると理解することが行動変容のカギです。
人生100年時代という言葉がすっかり定着した今、多くのミドルシニアはリスキリングなどの必要性も理解しています。しかし、成功体験があるからこそ行動変容は容易ではありません。企業による動機づけ、実行支援などのサポートが必要です。
ミドルシニア世代は、変容が求められていることを理解しているものの行動に踏み切れない「関心期」「準備期」にあたると考えられます。
そのため、企業としては、まずはキャリアカウンセリングの機会を提供し、新たなキャリアに対する理想を明確にするなど動機づけをサポートするとよいでしょう。成功体験を尊重しつつもアンラーニングの必要性を理解してもらう必要があるため、キャリアコンサルタントのアシストが望ましいといえます。
動機づけができた状態の「準備期」では、学び直し・リスキリングがおこなえるような学習プログラムを提供し、行動変容に向けてサポートします。今の時代に求められる学び直しであることが重要なので、デジタル教育をはじめ複数のカリキュラムを用意しましょう。
ITやAIのリテラシーは人によってレベルがさまざまなので、自分のペースで学べるラーニングシステムなどが適しています。また、継続して学んでもらうために引き続きキャリアカウンセラー・コーチなどによるサポートがあると効果的です。
「実行期」や「維持期」に行動を継続させるためには、時短勤務やフレックスタイムなど、学びやすい環境を整備することも重要です。また、公募制や新規事業立案の機会などがあれば、ミドルシニア世代も新たに学んだスキルとこれまでの経験をもとに既存事業や新規事業で企業に貢献することができます。
ミドルシニア世代の行動変容とキャリア自律は、現在の企業の重要なテーマです。昨今のミドルシニアは雇用環境の変化と自分が変わらなければならないことは重々理解しているでしょう。しかし、そうそう簡単に自分だけでは変化できないのが人間です。企業が行動変容ステージモデルを理解して適切なサポートをしていきましょう。
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