役職定年とは?制度内容や実態、定年後の人材活性について解説

2023年06月27日 08:30 #セカンドキャリア支援

役職定年を人事施策として導入している企業は多く、2017年に人事院が全国7,399社を対象におこなった調査によると、全体で16.4%、従業員500人以上の企業では30.7%がすでに導入済みです。

 

参照:平成29年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要

 

ところが、近年は役職定年を廃止する動きも見られます。役職定年には制度としてのメリットも多いものの、実際に制度を運用するとベテラン社員のモチベーション低下などの問題が出てくるというのが理由です。

 

企業が役職定年を効果的に活用するためには、同時に適切な人材の活性化施策をおこなうことが必須です。この記事では、役職定年の制度内容や実態、役職定年後の人材活性に関する施策を紹介します。最適な施策を実現するためにも、まずは役職定年の実態を知る必要があります。

 

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■役職定年の制度内容とは?

■役職定年が広まった背景

■役職定年を導入する目的

■役職定年の実態

■役職定年後の人材活性を促すための施策とは?

■まとめ

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■役職定年の制度内容とは?

 

役職定年とは役職に応じて定年を定め、所定の年齢に達した社員はその役職から退く制度です。例えば、55歳で部長職の役職定年を迎え、その後60歳の定年退職までは別の職位・ポストで勤務するという運用が一般的です。

 

■役職定年が広まった背景

 

日本で役職定年が広まった背景を解説します。

 

●定年延長

 

まず定年の延長が背景にあります。1980年代には定年は55歳が一般的でした。ところが、1986年に高年齢者雇用安定法が改正され「60歳定年が企業の努力義務」になり、さらに1994年には60歳未満の定年が禁止されました。

 

これらの改正によって定年年齢は段階的に引き上げられ、企業にとって人件費が大きな負担となり、組織の若返りと人件費の抑制を図る施策として役職定年が広まりました。

 

●終身雇用や年功序列の崩壊

 

近年は終身雇用が崩れつつあり、転職による人材の流動化が活発です。また、賃金面でも年功序列ではなく成果主義型賃金をとる会社が増えています。

 

そのため勤続年数の長い社員を多数抱えることが経営上の課題となりつつあり、それを解消するための施策として役職定年が導入された経緯もあります。役職定年によってシニア社員の管理職ポストを自動的にリセットすることで、若い世代から実力のある優秀な人材を登用できるようにしたのです。

 

 

■役職定年を導入する目的

 

企業が役職定年を導入する目的は以下の2点です。

 

●目的①若手社員の育成

 

社内における管理職のポストは限られています。役職定年によってポジションが定期的にリセットされればローテーションが円滑化します。若手社員は昇格のチャンスが増え、キャリア形成につながるのでモチベーションもアップしやすいでしょう。

 

一方、ベテラン社員も多忙な役職から外れることで後進の育成に注力する時間ができるので、この点でも若手社員の育成が促進されます。

 

●目的②「人件費の抑制」

 

もっとも、大きな目的はやはり人件費の抑制です。これまで多くの企業では年功序列による昇給や昇進がおこなわれてきましたが、年功制では勤続年数が長いほど給与が上がり役職も昇格します。定年年齢が延長され続けると、高年収のベテラン社員たちの人件費はさらに上がり続けることになります。

 

全体的な人件費の抑制のためには、人事制度に役職定年を導入して、持続的な昇給を抑制する必要があります。

 

■役職定年の実態

 

一方、役職定年の導入によってデメリットも表面化しました。

 

●ベテラン社員のモチベーション低下 

 

役職定年は社員のモチベーションに大きく影響します。例えば、独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の調査によると、役職を降りた後の「仕事に対する意欲の変化」という調査項目で、59.2%の人が役職定年後にモチベーションが「下がった」と答えました。「変わらない」は35.4%、「上がった」はわずか5.4%でしかありませんでした。

 

2021年施行の高年齢者雇用安定法によって「65歳まで定年年齢を引き上げる」「希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度を導入」「定年制の廃止」のいずれかの措置が企業に義務づけられ「70歳までの就業機会の確保」も努力義務となるなか、ベテラン社員のモチベーション維持は喫緊の課題だといえるでしょう。

 

関連記事:70歳で定年?企業がミドル・シニア世代へキャリア形成支援をおこなう意味とは

 

●役職定年見直しの動き

 

ベテラン社員のモチベーション低下は生産性の低下をもたらすだけでなく、若手社員に対しても悪影響を及ぼします。このため、大企業を中心に役職定年を見直す動きがあります。

 

例えばNECでは、従来56歳を役職定年としてきましたが、2021年にこれを廃止しました。また、大和ハウス工業も60歳を役職定年としてきましたが、2022年に廃止しています。

 

年功序列賃金の雇用制度から、年齢ではなく業務内容とその成果で給与を決める「ジョブ型雇用」への移行が背景にあります。年功だけで昇進したり、自動的にポストを外れるのではなく、あくまで能力や貢献度、成果を賃金に反映させるという動きです。

 

■役職定年後の人材活性を促すための施策とは?

 

ここでは、役職定年後の人材の活性化を促す施策を紹介します。

 

●社員のキャリア開発

 

従来、社員のキャリア開発は企業が主導してきました。しかし、人生100年時代といわれ働く期間が長期化し、多くの人が60~70代まで働く可能性が出てきた今、誰もが自律的なキャリア形成を求められています。

 

このような時代に、企業が社員の主体的なキャリア開発を支援することは従業員エンゲージメントやモチベーション向上につながります。

 

具体的には、若手からベテラン社員までを対象にした継続的なキャリア開発の提供、ミドル期からの役職定年後を見据えたキャリアプランニングの提案、実際の事例の紹介などがあります。また、役職定年者に対する期待や役割を会社全体に伝えていきましょう。

 

パソナではミドル・シニア社員のカウンセリング、リカレント教育などのセカンドキャリアコンサルティングを提供しています。また、在職中の管理職の方の転職を支援する「人材ブリッジサービス」、OB人材の活躍を支援する「OB会サポートサービス」も用意しています。

 

役職定年後の継続勤務も含め、さまざまな選択肢を提供することで、しかるべき年齢になったときに本人が納得してセカンドステージを選べるようになることが大切です。

 

関連記事:キャリア自律とは?キャリア開発との違いや企業による支援の現状を解説

 

●役職定年者のためのポスト新設

 

役職を外れて管理職ではなくなっても、キャリアや経験を活かせるポストを用意します。自分の得意分野を仕事で活かすことができれば、モチベーションアップにつながります。

 

また、新しく役職についた社員のサポート役や若手社員のメンターとしての役割も考えられます。役職定年者は経験が豊富であり、後進育成で力を発揮できればやりがいを持ちやすいでしょう。

 

●トータルリワードの活用

 

トータルリワードとは金銭的な報酬だけでなく、目に見えない「非金銭的な報酬」を与えることを指します。具体的には、感謝の言葉がけや相手からの承認、自己成長の実感です。役職定年を迎えると収入が減ってしまうのはやむを得ませんが、新しい仕事でも認められ成長していると感じる心理的報酬があれば、モチベーションの維持を図りやすいでしょう。

 

例:キャリア開発の機会、資格取得支援、よい人間関係、周囲からの承認、平等な情報提供、ボランティア休暇、柔軟な勤務スケジュール、ハイブリッドワーク、リモート勤務、副業・兼業など

 

 

■まとめ

 

役職定年は、企業や若手社員にとっては多くのメリットがある制度ですが、一方でベテラン社員のモチベーション低下を引き起こすというリスクも併存します。

 

このような課題を解決するには、早期から自律的なキャリア形成を考える機会を社員に提供し、その過程で人生後半のキャリア、役職定年後の働き方も考えてもらうことが大切です。

 

また、役職定年後も継続してキャリア開発の機会を提供し、成果や貢献度に対して感謝を表明することで「会社がバックアップしている」「これからも成長していける」と実感してもらえるでしょう。このような人材の活性化施策を通じて役職定年後の社員のモチベーションを最大限に引き出せば、組織全体の成長につながっていきます。

 

ただし、ここでポイントとなるのが社員の自律的なキャリア形成です。本来は社内のリソースで対応したいところですが、専門的な内容も多く現実には難しい面があります。

 

パソナの『セーフプレースメント・トータルサービス』は、社員の自律的なキャリア形成実現のための支援に特化したサービスであり、ライフキャリアプラン研修や専門コンサルタントによるキャリアカウンセリングをおこなっています。最終的に社員自身が自律的にキャリアを選択し、自己実現を促すことを目的としていますので、このような外部サービスも活用しつつ、自社に最適な人材の活性化施策を実現していきましょう。 

 

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資料ダウンロード:ミドルシニアのキャリア支援サービス

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