DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)とは?概念を解説

近年、日本でも多くの企業が経営理念に取り入れているD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)。これを発展させた考え方として、最近、新たに広がりを見せているのがDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)という概念です。

 

この記事では、DE&Iの概念とD&Iからシフトした背景、企業のDE&I推進に必要な考え方について解説します。

 

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■DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)とは

■D&IからDE&Iへの変化

■DE&Iに取り組むメリット

■企業のDE&I推進に必要な考え方

■まとめ

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■DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)とは

 

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)とは、Diversity(ダイバーシティ/多様性)・ Equity(エクイティ/公平性)・Inclusion(インクルージョン/包括性)の3つをあわせた言葉です。

 

従来のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の考え方に「Equity(公平性)」を加えたもので、D&Iから一歩進んだ概念として近年広がりつつあります。

 

DE&Iは、企業理念や教育理念などに多様性・公平性・包括性を取り入れて公平な機会のもと、多様な人材が互いに尊重しあい、力を発揮できる環境を実現するという概念です。


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●D:Diversity(ダイバーシティ/多様性)とは

 

Diversity(ダイバーシティ)とは日本語で「多様性」を意味する言葉です。性別や年齢、国籍、価値観、性的指向、障がいの有無など、さまざまな異なる属性を持つ人々が集団の中で共存している状態をいいます。

 

ダイバーシティには、外部からでも判断しやすい「表層的ダイバーシティ」と、外部からでは判断しにくい「深層的ダイバーシティ」の2種類があります。たとえば、個人の性別や年齢、国籍、人種、障がいの有無などは他の人から見ても認識できる多様性といえます。一方、個人の価値観や性的指向、能力(スキル)、趣味、ライフスタイルなどは表面化されておらず、外見だけでは判断しにくい多様性といえるでしょう。

 

●E:Equity(エクイティ/公平性)とは

 

Equity(エクイティ)とは日本語で「公平性」を意味する言葉です。DE&Iにおける公平性とは「さまざまな情報や機会へのアクセスをすべての人に公平に保証すること」を指します。

 

D&Iに新たに加わったEquity(公平性)を実現するためには、Equality(平等)との違いを十分に理解しておく必要があります。この2つは一見意味が似ているものの、実際は大きく異なります。

 

たとえば、150cmの塀を前に身長180cmのAさん、150cmのBさん、120cmのCさんが立っているとすると、この時点で塀の向こうの景色を見られるのはAさんのみです。ここで、高さ30cmの台を全員に1つずつ「平等」に与えると、Aさん(210㎝)は高い視点から余裕をもって塀の向こうを見渡せ、Bさん(180㎝)も景色を見られるようになるものの、Cさん(150㎝)は変わらず塀の向こうを見ることはできません。

 

しかし、Bさんに高さ30cmの台を1つ、Cさんには台を2つに与えると、全員の頭の高さが180cmで並び「公平」に塀の向こうの景色を見られるようになります。

 

これが、Equity(公平性)とEquality(平等)の違いです。

 

DE&Iは、そもそも社会には不平等な構造があり、誰もが同じスタートラインに立っているわけではないことを前提としています。すべての人に同じツールやリソースを提供するのではなく、一人ひとりの違いや状況に配慮して提供し、公平になる環境を整備することで、多様性と包括性のある組織にしていこうという考え方です。

 

●I:Inclusion(インクルージョン/包括性)とは

 

Inclusion(インクルージョン)とは日本語で「包括性」を意味する言葉です。異なる属性を持つ人々を受け入れ、尊重し、一人ひとりの能力が十分に発揮されている状態をいいます。ビジネスにおいては、社員同士が互いの違いを認め合い、個人の特性や能力が活かしながら一丸となって働ける環境を指します。

 

多様な人材の力を最大限に活かすためにはインクルージョンが欠かせません。多くの企業がダイバーシティを推進しているものの、年齢や国籍、価値観の異なる人々を集めることが目的となっているケースが多く、組織のなかで個々の能力が十分に活かされていないことも少なくありません。一人ひとりの多様性を認め、公平な環境を整備するだけでなく、多様な人材が活躍できる組織をつくることが重要です。つまり、ダイバーシティ・エクイティとインクルージョンは、両輪で取り組んでいく必要があるのです。

 

 

■D&IからDE&Iへの変化

 

●D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは

 

そもそもDE&Iの前身であるD&Iとは、どのような概念でしょうか?

 

D&Iとは、性別や年代、国籍や価値観など、人と人の間にあるさまざまな違いを受け入れ尊重しあい、多様性を社会や組織に組み入れて活かすことで、成長や発展を促そうとする考え方です。

 

もともとはアメリカで、性別や人種、皮膚の色や出身国などによるすべての差別を禁止した公民権法が施行されたことで生まれた概念です。1960年代にアメリカの企業社会で広がりはじめました。日本では1980年代後半から徐々に浸透しはじめ、2010年以降になると多くの企業がダイバーシティ推進に取り組むようになりました。

 

企業にとってD&I推進はイノベーションの拡大や優秀な人材の確保、従業員満足度の向上などにつながるメリットがあり、経営にD&Iを取り入れることを「ダイバーシティ経営」「ダイバーシティマネジメント」と呼びます。

 

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●D&IからDE&Iへシフトした背景

 

社会にはさまざまな不平等が存在していますが、これは差別をなくすだけで解消できる問題ではありません。そもそものスタートラインが異なるため、差別をなくして平等な環境を与えたとしても、すべての人が活躍できるとは限らないのです。

 

たとえば性別や障がいの有無を理由に希望のポジションにつけなかったり、長期的なキャリア形成に支障をきたしたりすることがあります。このようにスタート地点からすでに不平等が生じている場合、D&Iのアプローチだけでは不十分といわざるを得ません。多様な人材を平等に扱い、各人の個性を活かせる環境を与えるだけでは、スタート地点から存在する不平等を解消できないからです。

 

DE&Iの「Equity(公平性)」は、D&Iのアプローチによる問題点を補完する概念といえます。平等ではなく公平な機会を提供することが、スタート地点からの不均衡を是正することにつながり、本当の意味で誰もが活躍できる社会を実現できるのです。

 

●DE&Iの広がり

 

D&Iから一歩進んだ概念として浸透しつつあるDE&Iですが、グローバルにおける企業の取り組みは増加・強化されています。

 

2020年にアメリカの大手人事ソフトウェアベンダー Workdayが23カ国のダイバーシティ推進企業におこなった調査では、グローバルで59%(日本では44%)がDE&Iの取り組みへの予算が前年度比で増加したと回答しました。また、35%(日本では27%)が、次会計年度に予算増を予定と回答しています。

 

参考サイト:Workday、日本を含む23ヵ国のダイバーシティに関する調査結果を公開

 

日本でも最近は、武田薬品工業、USEN-NEXT GROUPほか、「DE&I宣言」をおこなう企業が増えつつあります。

 

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■DE&Iに取り組むメリット

 

企業がDE&Iに取り組むメリットとして以下の点が挙げられます。

 

●優秀な人材の確保

 

DE&Iが実現すると、異なる属性を持つ多様な人材が自身の能力を十分に発揮できるようになります。誰もが活躍できる環境であれば、社員のモチベーションが向上し、人材流出を防ぐことにつながるでしょう。また、日本では少子高齢化による労働力不足が深刻な問題となっており、多様な人材の活躍がこれまで以上に重要視されています。自社に必要な人材を確保し、持続的な成長を続けていくためにも、DE&Iへの取り組みが必要です。

 

●イノベーションの創出

 

異なる個性や価値観をもつ多様な人材を受け入れることは、イノベーションの創出に直結します。個々の多様性からこれまでになかった新たな発想が生まれると、多様化する市場や顧客ニーズにも柔軟に応えられるようになるでしょう。また、多様な属性の人々と共存することで、社員自身もさまざまな知見や経験を得られるメリットがあります。

 

ボストン・コンサルティング・グループの調査によると、管理職に占める女性の割合が20%以上になるとイノベーションによる収益が上がり始めるといいます。この調査結果では、女性の参画を増やすことがイノベーションの創出につながり、結果的に企業の利益も増やしていることを表しています。

 

出典:The Mix That Matters Innovation Through Diversity

 

●心理的安全性の向上

 

心理的安全性とは、組織の中で誰もが自分の意見を安心して発言できる状態のことです。誰に何をいっても拒絶されるおそれがないため、周囲の目を気にすることなく、自然体の自分でいられる環境ともいえます。心理的安全性が確保された組織では、異なる特性を持つ人々も安心して自分自身を表現できるため、DE&Iの実現に欠かせない要素の一つと考えられています。

 

一方で、心理的安全性が確保されていない組織では、周りの人に遠慮して自分の意見を口に出せなかったり、一部の人のみの意見が採用されたりすることがあります。このような環境では自分のパフォーマンスを発揮できず、組織内にイノベーションが生まれることもありません。多様な人々が活躍し、組織の成果を最大化するためには、誰もが安心して自分を表現できるような環境をつくることが重要です。

 

●企業価値の向上

 

DE&Iに向けた取り組みは、優秀な人材の確保やイノベーションの創出、心理的安全性の向上などに効果があり、これらはすべて企業価値の向上につながります。将来の予測がつきにくいVUCA時代においても、市場の中で優位性を確保できる強い組織となり、持続的な成長・発展が期待できるでしょう。

 

また、多様な人材が活躍できる組織、他にはない新たな発想が生まれる組織はステークホルダーから評価され、ESG投資[MOU4] を呼び込みやすくなるメリットもあります。

 

■企業のDE&I推進に必要な考え方

 

企業におけるDE&Iの取り組みには、社員の意識を改めるための各種研修、人事制度改革などによるジェンダーギャップ解消、女性の健康課題についての啓蒙などがあります。

 

しかし、DE&Iの基本的な概念への理解と、現状に問題点があることを認めた上で少数派の人たちの意見に耳を傾ける姿勢がないと、表面的な取り組みと効果に終わってしまうでしょう。人事部門だけでなく、社員一人ひとりが次の考え方や姿勢を持つ必要があります。

 

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●アンコンシャスバイアスに気付く

 

アンコンシャスバイアスとは「無意識の偏見」や「無意識の思い込み」を意味する言葉です。DE&Iを組織に浸透させるためには、社員が自らのアンコンシャスバイアスに気付き、偏った視点を見直していく必要があります。

 

まずは、現在の状態に問題があり、変革が必要だと認識してもらうことが重要です。そのためには、特定の属性の人材とそれ以外の人材の登用や評価に差があることを、社内のデータをもとに証明するなど、ファクトベースで問題点を提示する必要があるでしょう。

 

DE&Iの推進にあたり、女性など特定の属性の人材に配慮する施策を進めると「逆差別では」という意見をもつ人もいます。実はこうした意見は、これまで当たり前に優位性を得てきたマジョリティの人たちが自分の特権を自覚していないことが原因であることが多いのです。

 

自分の視点や自社の制度に、無自覚の偏見や差別(アンコンシャスバイアス)があることを認めるのは簡単ではありませんが、そこを乗り越えて社員が協力しあってDE&Iを進めていくことが大切です。

 

関連記事:アンコンシャスバイアスとは?意味、職場でよくある具体例や対処法を解説

 

●少数派の声から学ぶ

 

組織にはさまざまな立場の人がいます。一般に組織の中で少数派にある人ほど、自分の考えが受け入れられないのではという不安から、意見や感じたことをいえない傾向があります。

 

少数派の意見を汲み上げる機会や声を上げやすい環境をつくり、多数派の人たちが自分とは異なる意見に耳を傾け、その声から学んで問題解決や意思決定に活かせるようになる必要があります。

 

関連記事:心理的安全性とは?心理的安全性を高めるメリットと測定方法をご紹介

 

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●忍耐強く続ける

 

DE&Iの概念を社員全員が受け入れ、実践し、誰もが力を発揮できる環境を実現することは簡単ではありません。人がこれまで当たり前と思っていた考え方を改めるには、時間がかかるものです。うまくいかないことが続いたり、長い時間がかかったりする場合もあるでしょう。

 

明確なビジョンを掲げて、長期目線で変革に取り組み、忍耐強く続けていくことが求められます。

 

 

■まとめ

 

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)とは、D&I(ダイバーシティ・インクルージョン)に「Equity(公平性)」が加わった概念です。

 

DE&Iとは、すべての人に平等にツールやリソースを提供するのではなく、一人ひとりの状況にあわせて適切なツールやリソースを提供し、公平性を担保することで多様性と包括性のある組織にしていく考え方です。

 

具体的なDE&Iの取り組みには、研修会の実施、女性の健康課題やアンコンシャスバイアスについての啓蒙などが挙げられます。成果が出るまでに時間を要する取り組みなため、長期的かつ戦略的に取り組む必要があるでしょう。

 

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